筋力トレーニングに励む多くの人が陥る最大の罠が、「きついと感じるまで回数をこなせば、すべての筋肉が均等に鍛えられる」という思い込みです。しかし、人体の神経筋システムには厳格な法則が存在します。運動生理学における基本原則であるヘネマンのサイズの原理(Size Principle)です。
筋肉を動かす運動神経は、小さな力を発揮するときには活動閾値の低い小型の運動単位(遅筋)から順に動員されます。ジョギングや軽めのダンベル運動、あるいはゆっくりとした動作で行う自重トレーニングでは、どれほど回数を重ねて疲労感を得たとしても、活動しているのは主に遅筋線維です。爆発的な力を発揮する高出力の速筋は、脳が「極めて大きな外力に抗する必要がある」または「極限の速度で動く必要がある」と判断しない限り、最後まで眠ったままになります。
速筋が太くなる理由とメカニズムの根幹には、筋原線維への強い力学的張力(メカニカルテンション)と、それに伴う細胞内シグナル伝達物質「mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)」の活性化があります。遅筋が酸素を取り込んで脂肪を燃やすミトコンドリア主体のエネルギー代謝を行うのに対し、速筋はグリコーゲンを急速に分解して強大な力を生み出し、強い物理的刺激に対して筋タンパク質合成を飛躍的に高める性質を持っています。つまり、ダラダラと20回以上続けられるような普通の筋トレでは、速筋が肥大するためのシグナルそのものが点灯しないのです。