館内に足を踏み入れてまず目を奪われるのが、かつてヨーロッパの王侯貴族たちが夜な夜な集ったサロンを想起させる「メインホール」だ。ここには、人間が手作業で精緻に組み上げた大型のオルゴールや自動演奏楽器がズラリと並ぶ。ボタンひとつで再現される現代の音楽とは異なり、ギアと歯車が噛み合い、真鍮のピンが金属の弁を弾く物理的な音が部屋中に満ちていく。その空気の振動自体が、鑑賞者の肌をダイレクトに刺激するのだ。
特に注目したいのが、かの有名なタイタニック号のサロンに設置される予定だったオーケストリオン(自動演奏楽器)。歴史のいたずらによって船への積み込みが遅れ、奇跡的に難を逃れたという逸話を持つこの展示品は、今も変わらぬ煌びやかな音色を放っている。機械仕掛けとは思えない表現の豊かさに、耳を傾ける人々は一瞬でタイムスリップしたかのような錯覚を覚えるはずだ。