本作の説得力を支えているのは、主演の蒼井優と江口洋介による鬼気迫る役作りだ。鹿児島から上京した真っ直ぐな主人公・なつめを演じた蒼井優は、クランクイン前から製菓指導の現場に通い詰め、プロ顔負けのナッペや絞り技術を体得したという。
一方、ある過去のトラウマから厨房を去った伝説のパティシエ・十村を演じた江口洋介。その無骨な背中と、計量器を前にした際に見せる張り詰めた視線は、観る者を圧倒する。配給を手掛けたアスミック・エースの制作陣が「妥協のないリアリズム」を追求した結果、現場には本物の製菓・スイーツ業界のプロたちも息を呑むほどの緊張感が漂っていた。
火傷の跡が残る指先、深夜の厨房に響く泡立て器の金属音。俳優陣が自らの身体を通じて表現した職人の矜持こそが、作品に永遠の命を吹き込んでいる。