1969年5月13日、駒場キャンパス900番教室。超満員の1000人を超える血気盛んな学生たちが待ち構える敵陣の壇上に、作家・三島由紀夫は護衛もつけず単身で乗り込んだ。左右の両極にある思想的対立者が暴力ではなく言葉によって切り結んだこの歴史的討論は、学生運動の枠組みを超えた文明論の頂点として語り継がれている。
赤ん坊を抱き、煙草を燻らせながら前衛劇的なレトリックで三島を挑発した芥正彦ら文藝・芸術系知識人との舌戦は、空間と時間、身体と言語をめぐる超絶的な応酬となった。三島由紀夫は学生たちの熱情と純粋性を認めつつも、「諸君が一言『天皇』と言ってくれれば、私は喜んで諸君と手を握る」と語りかけ、失われつつある日本精神の核を突きつけた。暴力の予感が充満する密室で繰り広げられたのは、互いの実存を賭けた奇跡的な対話空間だった。