これほど内容が異なるにもかかわらず、なぜ「八つ墓村=すけきよ」という記憶のバグが国民的規模で定着したのでしょうか。取材と歴史的検証を進めると、3つの明確な構造的要因が浮かび上がってきます。
1. わずか1年差で起きた「空前の横溝ブーム」と大量CM投下
最大の要因は、1976年10月公開の『犬神家の一族』と、1977年10月公開の『八つ墓村』の公開時期がほぼ1年しか離れていなかった点にあります。
当時、角川書店の角川春樹氏は「読んでから見るか、見てから読むか」という伝説的なキャッチコピーを掲げ、テレビCMを爆裂に投入するメディアミックス戦略を展開しました。角川文庫の横溝正史作品は累計数千万部を売り上げ、書店には横溝ブームの特設コーナーが林立。映画館の予告編、テレビCM、街頭ポスターで「おどろおどろしい横溝ワールド」の強烈な映像が連日連夜シャワーのように浴びせられました。
結果として、観客の脳内で「1976年の白マスク」と「1977年の懐中電灯&祟りじゃ」の記憶がひとつの“横溝ホラーフォルダ”に統合されてしまったのです。
2. バラエティ番組やコントによる「記号のミキシング」
決定打となったのは、テレビのバラエティ番組によるパロディの氾濫です。『オレたちひょうきん族』『志村けんのだいじょうぶだぁ』、さらには後年の『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』に至るまで、横溝作品のビジュアルは格好のパロディネタでした。
コント内では、お笑い芸人が「白マスクを被りながら頭に懐中電灯をつけ、『祟りじゃ〜!』と叫びながら池に逆さに飛び込む」といった2作品のハイブリッド演出が頻繁に行われました。昭和後期から平成にかけて育った世代は、本編映画を観る前にパロディを刷り込まれたため、頭の中で完全に同一の作品として定着したわけです。