調理現場やSNSの相談窓口で頻繁に寄せられるのが、ハンドブレンダーで生クリームが泡立たない理由と、逆に一瞬で固まりすぎて生クリームがブレンダーで分離する真相についての疑問です。これらは一見正反対の現象に見えますが、どちらもブレンダー特有の回転スピードと構造に起因しています。
泡立て器(ホイッパー)やハンドミキサーは、ワイヤーの隙間に空気を巻き込みながら、生クリーム中の「脂肪球」同士を衝突させて網目構造を作ります。これに対して、一般的なブレンダー(ブレード刃)は食材を細かく「粉砕・乳化」するためのツールです。毎分1万回を超える超高速回転刃によって、以下のような科学的現象が起きています。
まず、分離してしまうケースでは、強烈な剪断力(せんだんりょく:物質を断ち切る力)によって脂肪球の膜が一気に破壊されます。膜が破れた脂肪同士が急激にくっつき合い、水分(乳清・ホエー)を外へ押し出すことで、わずか20秒〜40秒程度でバターと水分に完全分離してしまうのです。さらに、モーターと刃の高速回転による「摩擦熱」が生クリームの温度を急上昇させ、分離を加速させます。
一方で「いつまでもシャバシャバで泡立たない」ケースでは、平たいボウルを使っているために刃が空気を巻き込めず、ただ液体をかき混ぜているだけの状態に陥っています。また、植物性脂肪を主原料とするホイップや乳脂肪分35%前後の低脂肪タイプは、純生クリーム(乳脂肪分40%以上)に比べて脂肪球同士の結合が起きにくく、ブレンダーの刃だけでは気泡構造を維持できない構造的要因もあります。