養殖漁業と栽培漁業の決定的な違いは、「どこまで人間の管理下に置くか」という生息サイクルの範囲にある。養殖漁業(aquaculture)は、人工孵化させた稚魚や天然採捕した幼魚を、沿岸の生け簀や陸上養殖設備に入れ、出荷可能なサイズになるまで餌を与え続けて全面的に飼育管理する手法だ。一連の管理が完全に閉じているため、味や品質の均一化、狙った時期での出荷調整が可能となる。
対して栽培漁業(sea-ranching / fish farming)は、卵から稚魚までの最も生存率が低い初期段階だけを人工環境下で安全に保護・育成し、自力で生き残れるサイズまで育った段階で自然の海や川へ大量に「放流」する。放流された魚は大海原の天然餌を食べて自力で育ち、成長した個体を沿岸漁民が従来の漁具や網で捕獲する。要するに、最後まで囲い込んで飼育するのが養殖であり、自然の力に生育を委ねるのが栽培だ。
このプロセスの違いは、ダイレクトにコスト構造に跳ね返る。養殖漁業では、長期間にわたる大量の飼料代(ペレットや生餌)や生け簀・陸上設備の維持管理費、燃油コストが経営を直撃する。昨今の世界的な原材料高騰は養殖事業者の利益率を酷く圧迫している。一方、栽培漁業は放流後の餌代がかからない反面、種苗生産施設を運用するための公的資金や地域漁協の負担、さらには「放流した魚が他地域の漁師に捕獲されてしまう」という流出リスクと常に隣り合わせだ。