杉元が危険極まりない北海道の金塊争奪戦に身を投じたきっかけは、私利私欲の蓄財ではありません。その根底には、故郷で起きたあまりに悲惨な過去と、親友・寅次との最期の約束がありました。
かつて杉元は東京・日野の農村で暮らしていましたが、一家を当時「不治の病」と恐れられた結核が襲います。母、兄、父を次々と病魔で失い、集落からの差別や感染拡大を防ぐため、自らの手で生家に火を放って故郷を捨てるという絶望的な少年期を過ごしました。
そんな彼にとって唯一の心の拠り所だったのが、幼馴染の梅子(うめこ)と親友の寅次(とらじ)でした。しかし、結核の家系である自分が梅子と結ばれれば彼女を不幸にすると考えた杉元は、身を引いて出奔。その後、梅子は寅次と結婚します。
日露戦争で再会した寅次は戦死する直前、杉元に「目を患っている梅子の治療費を稼いでアメリカへ渡航させてやってほしい」と言い残しました。杉元が金を欲したのは、失明の危機にある梅子を救い、自分が生き残ってしまった罪悪感を清算するためだったのです。
物語の終盤、莫大な権利を手に入れた杉元は、東京へ戻り梅子に大金を匿名で届けます。梅子の目の手術は無事に成功し、彼女は杉元からの施しであることを薄々察しながらも、杉元は自ら名乗り出ることはありませんでした。「自分の役目は終わった」と静かに身を引くこの幕引きは、かつての初恋に対する杉元なりの最も誠実で切ない決着でした。