「花粉の出ない杉をなぜ植えないのか」という問いの核心は、森林所有者が直面する経済的ディスインセンティブ(損害)にあります。山林に杉を植え、木材として収穫するまでには40年〜50年以上の歳月がかかりますが、現在の国産材価格は昭和のピーク時に比べて大幅に下落しています。
1ヘクタールの森林を伐採して更地にし、新たな苗木を植えて下刈り(雑草の刈り払い)を5年間続けるだけでも、数百万円規模の初期費用が発生します。木を売った収入よりも再造林にかかる費用のほうが高くつく「伐採即赤字」の構造が、山主の植え替え意欲を根底から奪っているのです。
上表が示す通り、無花粉スギの苗木価格は従来種に比べて1.5倍から2倍以上の開きがあります。1ヘクタールあたり約2,000本〜3,000本を植栽する場合、苗木代だけで数十万円のコスト差が生じます。国や自治体の植林補助金(造林補助金や森林環境譲与税を活用した支援)が拡充されているものの、申請手続きの煩雑さや自己負担分の持ち出しを敬遠する個人の山林所有者は少なくありません。