多摩動物公園のタイリクオオカミの歴史を語る上で欠かせないのが、日本国内で先駆的に取り組まれた「大群飼育」の存在です。野生本来の社会構造を再現した展示は、国内外の動物園関係者からも高く評価されてきました。
オオカミの社会は、最上位のリーダーである「アルファオス」と「アルファメス」を頂点とする厳格な序列社会です。多摩動物公園の歴代個体群においても、ロボやセロ、ネロ、メロといった名個体たちが群れを牽引し、威風堂々としたリーダーシップと血統を繋いできました。夕方の給餌前や縄張りを主張する際、1頭が低く唸るように声を上げると、瞬く間に群れ全体へ伝播して大合唱となるオオカミの遠吠えは、アジア園全体を震わせる圧巻の体験として多くの人々の記憶に刻まれています。
しかし、群れ飼育には常に過酷な側面が伴います。若年個体の成長に伴うリーダーへの挑戦や激しい順位闘争は、時に命に関わる致命傷をもたらします。野生下であれば敗者は群れを離脱(分散)できますが、限られた動物園の敷地内では逃げ場がありません。飼育現場では、闘争による事故死を防ぐための群れの分離、高齢化したアルファの保護、そして近親交配を防止するための繁殖制限といった極めて繊細なマネジメントが長年続けられてきました。