作中で山崎努演じる権藤が執着したのは、二重天井、ラブホテルの隠し部屋、そして架空名義の銀行口座だった。札束を物理的に隠し通そうとした昭和の脱税者たちの執念は、どこか泥臭く生々しい。
翻って2026年の現在、脱税の主戦場は暗号資産(仮想通貨)の分散型プロトコルや海外のNFTダークプール、さらにはAIを駆使した複雑なペーパーカンパニーのネットワークへと移行した。手法は極めて洗練され、記号化されたようにも見える。しかし、査察官たちが立ち向かう根本の構図は何一つ変わっていない。欲望に目が眩み、ルールをあざ笑う者と、地道な証拠の積み重ねでそれを追い詰める者たちの攻防だ。
現役の国税局査察官に取材すると、意外な答えが返ってきた。「技術がどれほど進化しても、脱税の根底にあるのは人間のエゴです。『マルサの女』で描かれた『人間観察の重要性』や『違和感を逃さない観察眼』は、データ解析が高度化した2026年の現場でも全く色あせていません」