プロレス史において、フォン・エリック家ほど栄光と悲劇が激しく交錯した血族は他に存在しない。一家の家長であり、必殺技「アイアン・クロー」で一世を風靡したフリッツ・フォン・エリックは、テキサス州ダラスを拠点とする団体WCCWを牛耳り、自身の息子たちを次々とプロレスラーとしてデビューさせた。
なかでもケリー・フォン・エリックは、圧倒的なスター性と運動神経を兼ね備えた「最高傑作」と称された。だが、その華やかな表舞台とは裏腹に、一家には「呪い」としか呼びようのない過酷な運命が容赦なく降りかかる。長男ジャックの幼少期の溺死に始まり、三男デビッドの遠征先での急死、四男ケリー、五男マイク、六男クリスの自死――。一家の屋台骨を支え、ファンを魅了し続けた兄弟たちが、次々とこの世を去っていった。
父フリッツが敷いた過酷な競争原理と「常に勝者であれ」という強烈な家父長制のプレッシャーは、若き兄弟たちの精神を確実に削り取っていた。ケリーはその重圧のすべてを肉体に刻み込みながら、一家の看板を背負い続けたのである。