ブレジネフの「唇攻撃」は、東側陣営の指導者だけに留まらなかった。モスクワを訪れる西側の首脳たちにとっても、ブレジネフの接近は物理的かつ外交的な冷や汗ものの危機だった。
ジミー・カーター米大統領は1979年の第二次戦略兵器制限交渉(SALT II)調印式でブレジネフと会談した際、過剰なスキンシップをうまくかわし、頬へのキスにとどめることに成功した。西側メディアはこれを「外交上の勝利」と見なすほど、ブレジネフのキスは恐れられていたのだ。
「鉄の女」として知られるイギリスのマーガレット・サッチャーや、フランスのジスカールデスタン大統領もまた、巧みな身のこなしと絶妙な間合いでブレジネフの強固な抱擁をいなした。もし油断すれば、モスクワのカメラの前でソ連最高指導者に口づけを奪われ、西側メディアに絶好の格好の標的にされることを彼らは熟知していたからだ。