方言「おいでや」の根本的な意味は、標準語に置き換えると「こっちにおいでよ」「うちに来なよ」「気軽に立ち寄ってね」という、相手の来訪や接近を促すフランクな勧誘・促しです。名詞・動詞の連用形である「おいで(お出で)」に関西一円で使われる終助詞「や」が結合した語構成となっています。
これに対して、多くの人が混同しがちなのが京都弁の「おいでやす」です。両者の間には、単なる語尾の響き以上の明確な文法格差と対人関係のルールが存在します。
「おいでやす」は、商家の店先や茶屋などで店主が客を迎える際に用いる「いらっしゃいませ」「よくお越しくださいました」という意味の接客・歓待の挨拶語です。「おいで」に丁寧・尊敬の助動詞「やす」が付加された敬語体系の一部であり、一見客から常連客まで幅広くもてなす公のトーンを含んでいます。さらに格式の高い「おこしやす(わざわざ遠いところをお越しくださいました)」という最上位の表現も存在します。
一方の「おいでや」は、店舗が客を迎える言葉ではなく、友人・家族・同僚など心理的距離の近い人間同士がプライベートで掛け合う表現です。そのため、観光客が地元の飲食店に入って「おいでや!」と店主に声をかけるのは不自然であり、後輩が先輩に対して「課長、私の席においでや」と発言すれば、重大なマナー違反(タメ口)と判定されます。