東京都墨田区の錦糸町駅周辺を歩くと、看板に打ち出された「厚切り」の文字が否応なしに目を引く。2026年の現在、この街で食される牛タンのスタンダードは間違いなく厚切り牛タンだ。表面は香ばしくカリッと焼き上げられ、歯を立てた瞬間に溢れ出すジューシーな旨味。この快感を一度知ってしまったら、もう薄切りのタンには戻れないという愛好家が後を絶たない。
今回の取材で特に印象的だったのは、雑居ビルの急な階段を上った先にある知る人ぞ知る隠れ家店舗だ。カウンターわずか8席の静謐な空間で提供されるのは、一頭の牛からわずかしか取れない「タン元」と呼ばれる最上級の部位。職人が包丁目を丁寧に入れ、炭火の遠赤外線で芯までじっくりと熱を通す。一口噛みしめれば、濃密な肉汁と独特の歯ごたえが口いっぱいに広がり、思わず溜息が漏れるほどだ。
一方で、日常使いとして圧倒的な支持を集めるのがコスパ抜群の穴場店だ。卸問屋との強固な太いパイプを活かし、極上の素材を驚くべき庶民派価格で提供する。仕込みに余念がない店主のこだわりが、リーズナブルな価格設定と妥協のない味の両立を可能にしている。どの店舗も「本当に旨い肉を気軽に食べてほしい」という情熱に溢れており、これこそがこの街の真骨頂と言えるだろう。