新幹線が停まる大都市の駅を降り立ち、混雑するバスに揺られて名所を駆け足で巡る――そうした消費型の観光スタイルに対する疲労感が、2026年の旅行市場で急速に表面化している。SNS映えを競う時代が一段落し、いま人々が切実に求めているのは、情報過多の日常を遮断できる余白の空間だ。
広島市中心部から車で約1時間。志和の田園風景を抜けた先にある並滝寺エリアは、まさにその答えのような場所である。ここには大型観光バスが列をなす光景はない。あるのは、風が擦れ合う笹の葉の音と、何百年もの風雪を耐え忍んできた木造建築の重厚な佇まいだけだ。訪れた者がまず息を呑むのは、視界を遮るもののない空の広さと、耳を澄まさなければ気づかない自然の微かな息吹である。