江戸中期の俳壇を牽引した与謝蕪村と、江戸末期に庶民の哀歓をユーモラスに詠んだ小林一茶。この二人が遺した夏の俳句傑作選は、それぞれ異なる視点から日本の夏の風土を活写しています。
画家としても名を馳せた蕪村の作品は、映画のワンシーンのように色彩豊かで視覚的なインパクトを放ちます。代表作の「夏河を越すうれしさよ手に草履」は、暑い盛りに冷たい川を素足で渡る涼感と、草履を手に持ったときの開放的な高揚感をストレートに表現しています。現代語訳としては「夏の川を素足で歩いて渡るこの嬉しさよ。脱いだ草履を手に持ちながら水に入っていると、暑さが吹き飛んでいく」という意味になり、川のせせらぎと水しぶきが目の前に広がるような構成です。
対照的に、小林一茶は人間以外の小さな生き物や貧しい日常に注ぐ温かな眼差しが特徴です。有名な「やれ打つな蠅が手をする足をする」(現代語訳:おいおい叩いて殺すな、そのハエがまるで命乞いをするように前足やすり合わせているではないか)や、「夕立やはだかで乗し裸馬」(現代語訳:突然の夕立に遭い、服を脱いで裸のまま鞍も置いていない馬に乗って駆けていく)といった句からは、夏の生命力と庶民の飾らない逞しさが伝わってきます。一茶の句は、日常の何気ない滑稽さや生命のいとおしさを再発見させてくれます。