善玉として活動していたレスラーやタレントが、突如として悪玉へと立場を翻すことを「ヒールターン(Heel Turn)」と呼びます。ファンを裏切るリスクを冒してまでヒールターンを決断する背景には、表現者としての構造的なメリットが存在します。
第一のメリットは、「表現の制約からの解放」です。正統派の善玉キャラクターは、「正しくあれ」「礼儀正しくあれ」という道徳的枠組みに縛られます。一方、ヒールに転向した瞬間、ルール無用の言動、毒舌、感情の爆発といった多面的な人間性をリングや画面上でさらけ出すことが可能になります。この解放感が、演者の隠れたポテンシャルを一気に開花させる契機となります。
第二に、「ストーリーの主導権を握れる点」が挙げられます。エンターテインメントにおいて、事件を起こすのは常に悪役の側です。善玉は仕掛けられた攻撃に「リアクション」することしかできませんが、ヒールは自ら抗争を仕掛け、物語のペース配分を完全に支配できます。
しかし、ネット上の議論などでは「ヒールターンは単なる人気落ちのテコ入れ」と誤解されることも少なくありません。実際には、「卓越した実力と観客への訴求力を兼ね備えたトッププレイヤーにしか許されないハイリスク・ハイリターンの賭け」であり、中途半端な覚悟で行えばブーイングすら起きず無関心に終わる厳しい世界です。