沖縄美ら海水族館をはじめとする国内屈指の飼育現場や、石垣島川平石崎などのダイビングスポットにおける観察記録は、生物学的なデータ以上の臨場感を伝えています。
世界で初めて複数種のマンタの長期飼育と繁殖に成功した沖縄美ら海水族館の飼育スタッフの手記や技術報告によると、マンタは呼吸の仕組み上、「泳ぎを止めることができない」という決定的な宿命を背負っています。底生のエイは砂に潜りながらでも頭部後方の「噴水孔(ふんすいこう)」から海水を吸い込んでエラへと送ることができますが、遊泳性のマンタはこの噴水孔が退化しており、口を開けて前進し続けることでしかエラに新鮮な酸素を送り込めません(ラム換水法)。水槽内で常に止まることなく旋回し続けるのは、優雅さを誇示しているのではなく、生きるための必須行動です。
水族館の給餌タイムでは、マンタ特有のダイナミックな宙返り摂食(サマーソルト)が観察されます。飼育員がオキアミなどの動物プランクトンを水面に投入すると、マンタは大きな口を全開にし、体を縦方向にくるりと回転させながら、効率よくプランクトンを吸い込みます。この行動は、野生の海でも濃密なプランクトンの塊に遭遇した際に見せる自然な摂食パターンです。
八重山諸島の海で20年以上のキャリアを持つベテランダイビングガイドは、取材に対して次のように現場の様子を語っています。
「初心者のダイバーは『巨大なエイが突進してきて刺されないか』と緊張されますが、マンタに毒針がないことを伝えると表情が一変します。初夏から秋にかけて見られる『マンタトレイン』と呼ばれる繁殖行動では、1匹のメスを追って何匹ものオスが一列に連なって泳ぎ回る圧巻の光景が広がります。また、サンゴの根に群がるホンソメワケベラなどに体の寄生虫を食べてもらう『クリーニングステーション』では、マンタがまるで順番待ちをするようにホバリングする姿が見られます。この知性的な振る舞いは、海底に潜む他のエイではまず見られないマンタ特有の魅力です」