ほうれん草の下茹でがうまくいかない最大の原因は、アクの正体である「シュウ酸」の性質と熱伝導の時間差を理解せずに加熱してしまう点にあります。シュウ酸は口に含んだときの強いえぐみや苦味、舌に残る独特のざらつきの原因物質です。さらに体内でカルシウムと結合すると結石(尿路結石など)を形成するリスク因子となるため、東洋種・西洋種を問わず、一般的なほうれん草の生食には注意が必要とされています。
シュウ酸は水溶性で熱に弱い性質を持っています。そのため、たっぷりの熱湯で茹でることで約7割から8割のシュウ酸を茹で汁の中へ溶出・除去できます。下茹でを省略してそのまま炒め物や汁物に入れると、料理全体にえぐみが回り、味と健康面の両方でデメリットが生じてしまいます。
また、お湯に塩を加える塩茹での理由には科学的な裏付けがあります。塩に含まれるナトリウムイオンが、ほうれん草の鮮やかな緑色色素である「クロロフィル」の分解を抑制し、退色を防ぐ効果を発揮します。同時に、沸点をわずかに上昇させ、浸透圧によって野菜の細胞壁を引き締めることで、心地よいシャキシャキとした食感を保ちます。