産院や総合病院の産科において、マニキュアやジェルネイルの除去が強く求められるのは、単なるマナーや慣習の問題ではありません。母体急変時に行われる救命処置やモニタリングを阻害しないための、極めて合理的な医療安全上のプロトコルです。
特に重要な医学的理由は以下の3点に集約されます。
1. パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定エラー
手術室や分べん監視下で必須となるパルスオキシメーターは、指先に赤色光と赤外光を透過させて血中のヘモグロビン酸素飽和度をリアルタイムで計測します。爪の上にジェルやマニキュア、特に顔料(ラメや濃色)が存在すると光の透過が著しく遮られ、正確な数値が表示されない、あるいは測定不能に陥る危険が生じます。
2. 爪床(そうしょう)の毛細血管によるチアノーゼ・全身状態の視診
麻酔科医や助産師は、分べん中の大量出血や血圧低下、ショック状態をいち早く察知するため、爪の下の血管の色(ピンク色か、青紫色のチアノーゼが出現していないか)を目視で確認します。ネイルアートで自爪が覆われていると、視覚的な急変サインを見落とすリスクが高まります。
3. 緊急帝王切開時のタイムロス回避
予定帝王切開だけでなく、自然分べん予定であっても胎児機能不全や常位胎盤早期剥離などにより、数分を争う緊急帝王切開へ切り替わるケースは珍しくありません。医療スタッフが専用器具のない状態でジェルネイルを削り落とすことは不可能に近く、全身麻酔導入の致命的な遅れにつながりかねません。