吉村のライフワークの集大成となったのが、ギザの大ピラミッド南側で進められた「クフ王の太陽の船発掘復元プロジェクト」である。数千年の眠りから目覚めた第二の木製船を傷つけることなく掘り出し、後世へと伝える大事業だ。
エジプト考古学におけるこの試みは、単なる宝探しではない。極めて緻密な学術研究・文化財保護の精神に基づいた国際的プロジェクトであり、吉村はその総責任者として巨大な重圧を背負い続けた。日射病と隣り合わせの現場指揮、エジプト政府とのタフな交渉、数億円規模の予算管理。精神が削られる極限の環境下で、私的な幸福を顧みる余白など微塵も残されていなかった。
クフ王の威容を現代に蘇らせるという偉業の裏で、一人の人間としての平穏な家庭生活は完全に砂漠の砂へと埋もれていった。その引き換えに得た成果は、人類の遺産として歴史に刻まれることになる。