実は、完成後の扱われ方にも天と地ほどの差があった。奈良時代から平安時代にかけて、国家の公式行事で講読されたのは『日本書紀』のみである。『古事記』は、歴史の表舞台からほぼ忘れ去られ、長く皇室や一部の貴族の間でひっそりと受け継がれるだけの存在だった。
この状況を一変させたのが、江戸時代の本居宣長だ。彼は『古事記伝』を著し、漢意(からごころ=中国風の考え方)に染まる前の、日本本来のピュアな精神が『古事記』に宿っていると絶賛した。ここから『古事記』の逆襲が始まり、現代における「神話の定番」としての地位を確立することになる。