千代保稲荷神社(岐阜県海津市)の歴史は平安時代、源八幡太郎義家の六男・義通が分家する際、父より「先祖の御霊璽(みたましろ)を千代に保て」と宝剣と肖像画を授かったことに始まります。室町時代にこの地に祀られて以来、商売繁盛のご利益を授かる聖地として、東海地方を中心とする自営業者や企業経営者から絶大な信仰を集めてきました。
お千代保稲荷の境内へ足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが参拝者の手にある「油揚げ」です。ここでは一般的な賽銭のみの参拝とは異なり、以下の独特な手順を踏むことが古くからの習わしとなっています。
参拝の第一歩は、鳥居の手前にある川魚店や乾物屋の店先で「藁(わら)に通された油揚げと蝋燭のセット(1組50円前後)」を調達することです。境内に入ったら、まず手水舎で身を清め、続いて「灯明場(とうみょうば)」へと向かいます。ここで購入した蝋燭に火を灯して奉納し、明かりを絶やさない祈りを捧げます。
その後、拝殿へと進み、藁を持ったまま油揚げを賽銭箱の上にある奉納台へと投げ入れ、二礼二拍手一礼の作法で祈願します。神仏習合の面影を色濃く残すこの一連の所作は、形式的な祈りを超えた「神への直接的な商取引と感謝の表明」という民間信仰ならではの身体性を帯びています。
また、お千代保稲荷の特筆すべき特徴として、「お札やお守り、破魔矢などを一切授与しない」という厳格な方針が挙げられます。これは「神社から形あるものを持ち帰らず、信仰そのものを心に留めて代々保ち続ける」という創建時の教えを忠実に守っているためです。おみくじ(1回50円程度)や境内にある願い事の重さを占う「重軽石(おもかるいし)」など、境内の見どころはシンプルでありながら、本質的な祈りの場としての清々しさを保っています。