『おしん』の物語が持つ強烈な引力は、過酷な運命に翻弄されながらも自らの足で立ち続ける主人公の姿にある。中でも、少女期から大人へと脱皮し、関東大震災や愛する者との別れ、起業の苦難に立ち向かう青春期を描いた時代こそ、作品のボリューミーな山場であった。
田中裕子が演じた青年期のおしんは、単なる「耐え忍ぶ健気なヒロイン」にとどまらない。貧困や家父長制の不条理に対する静かな怒り、自立した女性として商いに挑む商魂、そして時に見せる弱さと葛藤。田中裕子は、セリフ以上に「目」で語る表現力を発揮し、視聴者を画面へと引きずり込んだ。
過酷な撮影現場で彼女が追求したのは、徹底的なリアルだった。吹雪が舞い散る寒冷地でのロケ、冷たい水に手を浸しながら作業する場面においても、一切の手抜きを許さない姿勢。そのリアリティあふれる立ち振る舞いが、おしんという架空の人物に生々しい血通う人間の温もりを与えたのである。