倉敷国際ホテルに足を踏み入れた瞬間、多くの来訪者が思わず息を呑むのが、吹き抜けのメインロビーを飾る巨大な木版画です。世界的な版画家・棟方志功が手がけた『大世界の柵(乾・坤)』は、幅約12.8メートル、高さ約1.75メートルに及ぶ世界最大級の木版画連作。倉敷レイヨン(現クラレ)社長であり文化人としても知られた大原總一郎氏が、ホテルの開業に合わせて棟方に直々に制作を依頼した歴史的名作です。
制作当時、棟方はホテルのロビーに敷き詰められた畳の上に直接板を広げ、一心不乱に彫り進めたと伝えられています。人類の祈りと生命力がみなぎるダイナミックな彫り跡は、現在もロビーの象徴として宿泊客を温かく迎え入れています。
この重厚な芸術空間を包み込むのが、倉敷の近代建築の祖である建築家・浦辺鎮太郎(うらべしんたろう)による設計です。浦辺は倉敷の伝統的な「なまこ壁」の格子模様をモダンなコンクリート打ち放しや木調のルーバーへと昇華させ、1964年に日本建築学会賞を受賞しました。美観地区の歴史的景観を損なうことなく、現代建築としての機能美を融合させた空間構造は、半世紀以上の時を経た今なお褪せない魅力を放っています。