金具屋を語る上で避けて通れないのが、スタジオジブリの名作アニメーション『千と千尋の神隠し』との関連性です。SNSや旅行記ブログでは「油屋のモデルそのもの」と紹介されるケースが多く見られますが、スタジオジブリ公式の公式見解としては「特定の1軒のみをモデルにしたわけではなく、道後温泉本館や江戸東京建物園をはじめとする各地の歴史的建造物から着想を得た」とされています。
しかし、夕闇に浮かび上がる木造4階建て「斉月楼」の重厚な佇まい、赤い欄干、迷路のように入り組んだ館内廊下、そして温泉街に立ち込める湯煙の情景は、まさに劇中の異世界そのものです。当時のスタッフが制作にあたって渋温泉一帯の空気感や金具屋の建築意匠を参考にしたことは広く知られており、現在も世界中からジブリファンが巡礼に訪れています。
宿のルーツは江戸時代中期の1758年(宝暦8年)に発生した裏山の大崩落に遡ります。それまで鍛冶屋を営んでいた創業者が、災害復旧の現場から温泉が湧き出たことを機に宿屋へと転業。鍛冶屋時代の屋号「金具屋」をそのまま引き継ぎ、以来260年以上にわたってこの地で湯守の歴史を紡ぎ続けています。