萬屋錦之介の血統を語るうえで欠かせないのが、歌舞伎の名門・播磨屋の存在だ。錦之介の実父は、高名な三代目中村時蔵。本名を小川錦一といい、名門・小川家の四男として東京市麻布区に生を享けた。長男の二代目中村歌昇、次男の四代目中村時蔵、三男の初代中村獅童、そして五男の中村嘉葎雄。まさに男子全員が舞台や映像の世界へ身を投じる宿命を背負った芸能一族である。
幼少期より舞台に立ち、1936年に初代中村錦之助を名乗って初舞台を踏んだ。若き日の彼は、伝統の重圧を受け止めつつも、どこか枠に収まりきらない天性の華を放っていた。のちに播磨屋から枝分かれし、一門の屋号を「萬屋」へと改めることになるが、その根底に流れていたのは、父・三代目中村時蔵から受け継いだ骨太な芝居心と芸への執念だった。