1970年代初頭、日本の都市風景に突如として異形の城郭が出現した。1973年に東京・目黒に誕生した「目黒エンペラー」である。ヨーロッパの中世古城を模した絢爛豪華な外観は、当時の人々に強烈なインパクトを与え、全国に広がるラブホテル建築の金字塔となった。
当時、日本人の住環境は「ウサギ小屋」と揶揄されるほど狭小だった。日常の閉塞感から逃れ、非日常のファンタジーに浸りたいという強烈な欲求。それに呼応するように、ホテル内部の建築意匠はエスカレートを極めていく。宇宙船を模したキャビン、ゴンドラ型のリフト、そして部屋の中央で圧倒的な存在感を放つ回転仕掛けの円形ベッドである。
工場の旋回テーブルや舞台装置の技術を応用したこの家具は、ただ寝るための道具ではなかった。日常を劇的に切断し、映画の主人公へと変貌させるための「体験型アトラクション」だったのだ。