徳富蘆花の名を一躍全国に轟かせた不朽の名作が、1898年から翌年にかけて発表された小説『不如帰(ほととぎす)』です。
【『不如帰』のあらすじ】
名門・川島男爵家の令息である海軍少尉・武男と、陸軍中将の娘・浪子は、互いに深く愛し合い幸福な新婚生活を送っていた。しかし、浪子が不治の病とされた結核(肺病)を発病したことから運命は暗転する。家柄と血統の継続を重んじる武男の母は、武男が日清戦争に出征して不在の隙を突いて、一方的に浪子を離縁・実家へ送還してしまう。戦地から戻り絶望する武男と、病床で「人間なぜ死ぬのでしょう。死んでしまえば、もう誰にも気兼ねなく武男さんのそばにいられます」と呟きながら命を散らす浪子。二人の純愛と、封建的な家制度の残酷な犠牲となった悲劇を描き出します。
浪子の悲痛な叫び「千代も八千代も、男と生れて見たい」というフレーズは当時の社会に強烈な衝撃を与え、単行本は版を重ねて空前のブームを巻き起こしました。家庭小説の金字塔として、今なお多くの人々の涙を誘います。
一方で、蘆花の卓越した筆力が極限まで発揮されたのが随筆集『自然と人生』です。武蔵野や相模湾の自然美、富士の夕景や雲の移ろいを驚異的な観察眼とリリシズム溢れる日本語で描き出し、明治期の写生文・自然文学の最高峰と称えられています。さらに、幼少期の熊本での記憶をみずみずしく描いた自伝的小説『思出の記』も、明治の青春文学を代表する傑作として読み継がれています。