この丼がなぜ「衣笠」と呼ばれるのか。そのルーツを辿ると、平安時代の雅な逸話へと行き着く。京都市北区に座す衣笠山(京都府)は、かつて宇多天皇が真夏に「雪見がしたい」と所望した際、山一面に白い絹を敷き詰めて雪山に見立てたという伝説を持つ別名「きぬかけの山」だ。
丼の上にふんわりと広がる淡い黄色の卵と、そこから覗く白い油揚げの断面。この姿を雪を冠した衣笠山の情景に見立てたことが名前の由来とされている。庶民の日常食にさえ風雅な景勝地の名を冠してしまうあたりに、京都という街の文化的な奥行きが透けて見える。単なる「油揚げの卵とじ丼」で終わらせない言葉の魔術が、百年以上にわたって人々の食欲と情緒を刺激し続けてきた。