女優としての樹木希林が放っていた唯一無二の存在感は、そのまま彼女の活字の世界へと直結している。カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した『万引き家族』において、彼女が見せた即興性とリアリティへの執着は伝説的だ。是枝裕和監督との対話の中で彼女が投げかけた辛口の助言は、作品の芯を形作る重要な羅針盤となっていた。
また、河瀬直美監督の映画『あん』で見せたハンセン病元患者の繊細な佇まいも、演技という枠を遥かに超えていた。「役を演じるのではなく、その人間の業や痛みを引き受ける」――撮影の合間にこぼしたそうした言葉の数々は、映画人だけでなく、日々の仕事に向き合うすべての人々に突き刺さる。
現場での彼女は決して多くを語らなかった。だが、一言発するだけで空気の淀みを払い、本質を露わにする。その瞬発力と洞察力が、彼女の語録に独特の切れ味をもたらしている。