女優のキャリアには、時に激しい批判やリスクを伴う選択が求められる。黒木瞳にとって最大の転機となったのが、1997年公開の日本映画『失楽園』への出演だった。渡辺淳一のセンセーショナルなベストセラー小説を原作とし、大胆な官能美を描いたこの作品は社会現象を巻き起こした。
当然、家庭を持つ身としての出演には周囲からの懸念もあった。しかし、誰よりも彼女の背中を押したのは夫の伊知地氏だった。「役者として挑む価値があるなら、全力でやり切るべきだ」。その揺るぎない後押しがあったからこそ、彼女は日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、唯一無二の地位を確立した。
さらに2000年代に入り、直木賞作家・江國香織原作の『東京タワー』で年下の青年と禁断の愛に落ちる人妻役を熱演した際も、伊知地氏の理解と尊重の姿勢は一切揺らがなかった。表現者としての黒木瞳を家庭の枠に閉じ込めず、一人のクリエイターとしてリスペクトし続けるスタンスが、彼女の表現の翼を広げ続けてきた。