初代の長男として生まれた二代目中村獅童が歌舞伎の世界を志したとき、待っていたのは厳しい現実だった。父親がすでに役者を廃業していたため、名門の血筋でありながら、舞台上で大きな役を与えられる機会は皆無に等しかった。楽屋での序列、配役の不遇、そして周囲からの冷ややかな視線。二代目はまさにゼロからのスタートを強いられた。
その過酷な境遇を二人三脚で支え抜いたのが、初代の妻であり二代目の母である小川陽子氏だった。梨園の慣習に頭を下げ続け、息子の出番を求めて奔走した母の献身と、父・初代が遺した「役者の血」への誇り。二代目は自らを「歌舞伎界のアウトロー」と位置づけ、外部のオーディションへ果敢に挑戦していった。
運命を劇的に変えたのが、2002年に公開された映画『ピンポン』への出演である。スキンヘッドの怪童・ドラゴン役で見せた圧倒的な存在感は、日本アカデミー賞をはじめとする数々の映画賞を総なめにした。映画界での大成功を引っ提げて伝統芸能の牙城へと凱旋した彼の姿は、かつて舞台を去った初代の無念を鮮やかに晴らす痛快なドラマでもあった。