なぜこのような一見すると変則的な筆順が定められたのか。その理由は、文字の成り立ちと書道における筆脈(毛筆の穂先の自然な動き)にある。
漢字研究の大家である白川静の体系によれば、「必」の原義は「戈(ほこ)」の柄を木枠で締め固めた形、あるいは水をせき止める道具の形にかたどった象形文字とされる。もともと「心」とは系統の異なる文字であり、後世になって字形が類似したに過ぎない。
さらに書道の歴史を紐解くと、この筆順は行書や草書で流れるように筆を運ぶために最も合理的であることがわかる。中央の点から左の曲がりへ入り、右上の点から斜めの払い、そして最後の右下の点へと至る流れは、筆の穂先が紙から離れることなく自然に連鎖する。常用漢字表に収められている標準的な字形を最も均整の取れたプロポーションで仕上げるための先人の知恵なのだ。