昭和の歌姫・美空ひばりにとって、酒をモチーフにした楽曲は特別な意味を持っていた。代表曲『悲しい酒』で見せた涙の絶唱はあまりにも有名だが、彼女が晩年にかけて見せた『人恋酒』の解釈は、それとは明確に一線を画していたという。
「悲しみに溺れるのではなく、孤独を受け入れて生きる人間の力強さを表現したい」。生前、親しい関係者にそう漏らしていたという美空ひばり。彼女がマイクに向かった時、そこに宿っていたのは単なる傷心ではなく、人生の酸いも甘いも噛み分けた者にしか出せない包容力だった。復元された音源からは、フレーズの語尾に込められた微細な感情の揺れが驚くほどの臨場感で伝わってくる。