2012年6月、勘三郎は定期的な健康診断で食道がんを発見した。幸いにも比較的早期の段階であり、本人も周囲も「治療を経て、必ずや舞台に戻ってくる」と信じて疑わなかった。歌舞伎のみならず、現代劇や海外公演など、常に新しい挑戦を続けていた彼にとって、一時的な休業はさらなる飛躍のための充電期間に過ぎないはずだった。
同年7月、都内の病院で約12時間に及ぶ大手術が行われた。食道がんの手術は、消化器外科の中でも特に身体への負担が大きいことで知られている。胸部、腹部、そして頸部の3箇所を切開し、食道を切除した上で胃を移植する術式は、患者の体力を極限まで消耗させる。手術自体は成功したと発表されたが、ここから彼の身体は目に見えない牙に蝕まれていくことになる。