香川照之が誕生したのは1965年12月のことでした。父は歌舞伎界の風雲児と呼ばれた三代目市川猿之助(後の二代目市川猿翁)、母は宝塚を退団後もスター女優として輝いていた浜木綿子。誰もが羨む華やかなサラブレッドの誕生に見えましたが、その平穏はわずか1年余りで崩壊します。
父である猿翁が、初恋の相手であった女優・藤間紫のもとへ走り、家庭を捨てて出奔したことが離婚の決定打となりました。1968年に正式な離婚が成立した際、香川照之はまだ3歳にも満たない幼子でした。突然の裏切りによって幼い息子と取り残された浜木綿子は、世間の好奇の目にさらされながらも、ひとりで息子を守り抜くことを固く誓います。
歌舞伎の門閥という後ろ盾を完全に断ち切られた母子家庭の環境下で、香川照之の壮絶な生い立ちが始まりました。父の記憶がほとんどないまま成長する息子に対し、浜木綿子は父親の悪口を決して吹き込まず、ただひたすらに深い愛情を注ぎ続けました。