では、なぜかつて主流だった熱処理ビールが姿を消し、市場のほぼすべてが生ビールへと塗り替わったのか。その立役者となったのが、1970年代から1980年代にかけて劇的な進歩を遂げた酵母ろ過技術(ミクロフィルターろ過技術)である。
かつては加熱しなければ酵母の活動を止められず、常温で放置すれば発酵が進んで容器が破裂したり、酸敗して味が劣化したりするリスクがあった。しかし、精密機器や医療分野で開発されたミクロン単位の特殊フィルターを醸造設備に導入したことで、加熱することなく酵母や微生物を物理的に100%取り除くことが可能になったのだ。
この技術革新により、工場で生まれたてのフレッシュな風味をそのままアルミ缶やガラス瓶に封じ込め、全国へ常温配送できる時代が到来した。1987年に発売され社会現象となった「アサヒスーパードライ」の爆発的ヒットも、このろ過技術によって実現した雑味のない「キレ」が生み出したものだ。日本の生ビールは、精密工学と醸造技術の結晶といえる。