物語のクライマックス手前でパズーとシータ、そして空中海賊ドーラ一家が突入する「竜の巣」は、単なる嵐の雲ではありません。外縁部は巨大なドーム状の積乱雲が幾重にも重なり、内部では常に放電が繰り返される前人未踏の気象障壁として描かれています。
気象物理学の観点から検証すると、この竜の巣の正体に最も近い現実の自然現象は、単一のセルが長寿命化・巨大化した極端気象「スーパーセル(超巨大積乱雲)」です。スーパーセルは内部に「メソサイクロン」と呼ばれる強力な回転上昇気流を保持しており、直径数十キロメートル、雲頂高度は成層圏下部に達する12,000メートルから16,000メートルにも及びます。
アニメーション制作当時の資料や宮崎駿監督の言及を紐解くと、監督自身が飛行機乗りとしての深い航空知識と空への憧憬を持っていたことが分かります。現実の熱帯性低気圧(台風)の目や、巨大雷雲のダイナミズムをベースにしつつ、伝承に語り継がれる「天竜が住まう巣」という神話的意匠を巧みに融合させた造形であることが伺えます。