二人の関係の原点は、数百年前に遡る。病に倒れ、死の淵にいた珠世。子供の成長を見届けたい一心だった彼女の切実な願いに付け込んだのが、鬼の始祖である鬼舞辻無惨だ。言葉巧みに彼女を騙し、鬼へと変貌させた無惨の目的は、単なる手駒の増加に過ぎなかった。
しかし、鬼化が生んだ悲劇は凄絶を極めた。理性を失った珠世は、自らの手で愛する夫と子供を殺め、貪ってしまう。この不可逆の罪悪感こそが、彼女の心を永遠に引き裂き、無惨への絶対的な復讐心へと昇華したのだ。長い年月を経て無惨の呪縛を自力で解除した珠世は、医術と薬学の知識を武器に、無惨を討ち果たす唯一無二の存在へと成長していく。
無限城の深部で迎えた最終対決において、珠世は自らの命を完璧な『撒き餌』として差し出した。無惨の体内に直接飛び込み、自爆覚悟で特殊な薬を注入する場面は、作品全体を通しても屈指の緊迫感を誇る。無惨の手によって肉体を破壊され、惨殺される凄惨な結末を迎えながらも、珠世の瞳から絶望が消えることはなかった。彼女の死は敗北ではなく、始祖の絶対優位を崩壊させる計算し尽くされた序章だったのだ。