1998年当時、無名の新人であった宇多田ヒカルのデビューに際し、東芝EMI(当時)の制作チームとプロデューサー陣は異例のマーケティング戦略を展開しました。その象徴が「8cmシングル」と「12cm(マキシ)シングル」の同日同時リリースです。
当時の日本のシングル市場は8cm短冊型CDが主流でしたが、クラブカルチャーや洋楽R&Bシーンを意識した12cm盤には、名曲『time will tell』のアナログ的なダブ・ミックス(Dub Mix)などを追加収録。音楽関係者やFMラジオ局のDJに向けたアプローチを徹底したことで、外資系レコード店を中心に火がつきました。結果として8cm盤が約77万枚、12cm盤が約129万枚を売り上げ、合算でダブルミリオン(206万枚超)を達成するという社会現象へと発展します。
🎬 【歴史的トリビア】なぜ彼女は「黄色いソファ」の前で中腰だったのか?監督の井澤トムが手掛けた『Automatic』のミュージックビデオ(PV)は、黄色いソファの前でリズミカルに身をかがめながら歌う姿が強いインパクトを与えました。実はこの独特なポージング、演出ではなく「現場のセットの天井が予想以上に低く作られてしまい、立ち上がると頭がぶつかってしまうため、中腰で歌うしかなかった」というアクシデントが理由でした。窮余の策として生まれた身体の揺らぎが、結果的に15歳とは思えないグルーヴ感とアンニュイな存在感を際立たせることになったのです。
アレンジャーの西平彰と河野圭、ギタリストの今剛らが参加したバッキングトラックは、当時流行していた過剰なデジタルシンセを排し、アメリカ東海岸のR&B/ヒップホップのエッセンスを緻密な生演奏とプログラミングの融合で再現。当時15歳の少女が書き下ろしたメロディと英語混じりの譜割りが、完璧なケミストリーを起こしていました。