映画出演100本目の記念作として自ら企画を立ち上げた『秋津温泉』は、彼女の情熱が結実した文芸映画の金字塔である。自ら監督に指名したのは、当時「松竹ヌーヴェルヴァーグ」の急先鋒として異彩を放っていた若き気鋭、吉田喜重だった。
撮影現場は緊迫感に包まれていた。一コマ一コマに妥協を許さない吉田の極限的な演出に対し、彼女も一切の引けを取らず全身全霊で挑み続けた。この壮絶な現場での対峙が作品に圧倒的なリアリティと情念をもたらし、二人は後に私生活でも生涯のパートナーとなる運命を辿る。愛と死の深淵を描いた傑作の裏には、表現者同士の魂のぶつかり合いが存在したのだ。