大谷の契約において最大のミステリーとされたのが、「年俸7000万ドルのうち、6800万ドルを後払いにする」という極端なキャッシュフロー設計です。ドジャース在籍中の10年間(2026〜2033年)に大谷が実際に受け取る基本年俸は、年間200万ドル(約3億円)にすぎません。残りの6億8000万ドル(約986億円)は、契約満了後の2034年から2043年にかけて、無利息で均等分割して支払われる仕組みです。
大谷自身がこの前代未聞のスキームを球団側に提案した背景には、明確な3つの狙いがありました。
第1の理由は、ドジャースの「贅沢税(競争バランス税=CBT)」の負担軽減です。MLBには年俸総額の上限を超える球団に重い課徴金を科す贅沢税制度が存在します。契約額をそのまま計上すると年平均7000万ドルが課税対象になりますが、後払いによる現在価値の割引計算(インフレや利息を考慮した計算式)を適用した結果、贅沢税上の年俸換算額は約4600万ドルまで圧縮されました。これにより、球団の課税ラインに対する圧迫を年間2400万ドルも緩和させています。
第2の理由は、「常勝軍団」を維持するための補強原資の確保です。大谷の年俸支払いを先送りにしたことでドジャースのキャッシュフローには莫大な余力が生まれ、山本由伸投手やタイラー・グラスノー投手らの獲得をはじめとする大型補強を次々と実現させました。自らの手取りを後回しにしてでも「勝てるチーム」を作るという、大谷の徹底した勝利至上主義の現れです。
第3の理由は、自らのブランド価値が生み出す圧倒的な副収入への絶対的自信です。一般的な選手であれば目先のキャッシュを欲するところですが、大谷にはグラウンド外で莫大なスポンサー収入が入るため、球団からの給与を今すぐ多額に受け取る金銭的動機がそもそも薄かったという現実があります。