山王日枝神社の境内を訪れた参拝者がまず驚嘆するのが、外堀通りに面した山王橋(ザ・キャピトルホテル東急側)に堂々と設置された巨大な屋外エスカレーターです。厳格な神道施設に近代建築設備が組み込まれたこの光景は、ネット上でもたびたび話題に上ります。
この赤坂日枝神社にエスカレーターがある理由には、歴史的立地と綿密なホスピタリティが関係しています。日枝神社が建つ「星ヶ岡」は、かつて江戸湾を一望できたほどの急峻な台地です。本殿にたどり着くには、表参道(山王男坂)の53段に及ぶ急勾配の石段を登り切る必要があります。しかし、政財界の高名な参拝者には高齢の指導者も多く、また日常的に訪れる車椅子利用者、足腰に不安を抱えるシニア層、あるいは七五三や結婚式で和装を召した参拝客にとって、この高低差は物理的な参入障壁となっていました。
そこで神社側は「すべての人に神前への道を開く」という思想のもと、大規模な境内整備事業の一環として屋外対応型のエスカレーターを導入しました。景観を損なわないよう配慮された意匠と相まって、現在は高齢者のみならずベビーカーを押す若いファミリー層からも極めて高い評価を得ています。
一方、近代的なエスカレーターとは鮮やかな対比をなすのが、西参道に連なる赤坂日枝神社の稲荷参道・千本鳥居です。末社である山王稲荷神社へと続くこの小径には、朱塗りの鳥居がトンネルのように幾重にも重なり、都心の真ん中とは思えない幻想的な静寂を湛えています。明暦の大火でも唯一焼け残ったとされる奇跡の稲荷社へ向かう参道は、都会の喧騒から精神を切り離し、日常から神域へと意識を遷移させる心理的な装置として機能しています。