2010年代後半、きらびやかでハイテンポな電子音が席巻していたVOCALOIDカルチャーに、ひとつの異変が起きた。静寂そのものをメロディに変えるような、傘村トータのピアノバラード群の登場だ。その筆頭である贖罪(楽曲)は、派手なシンセサイザーも過剰なビートも持たない。ただ訥々と語られる罪の意識と、拭いきれない孤独が紡がれていた。
初音ミクをはじめとするバーチャルシンガー文化を育んできたクリプトン・フューチャー・メディアの技術的発展は、歌声合成に「人間以上の完璧さ」をもたらしてきた。しかし『贖罪』が求めたのは、完璧さの対極にある脆さだった。機械であるはずのボーカロイドが絞り出す嗚咽のようなフレーズ。その圧倒的な叙情詩に触れたクリエイターたちは、「この痛みを自分の声で叫ばずにはいられない」という衝動に駆り立てられたのである。