1990年代初頭。日本の都市部の雑居ビルやイベント会場では、連日のように「マリンアート展」が開催されていた。強烈な営業トークとともに高額なシルクスクリーン(版画)が販売された光景は、当時を知る世代の記憶に深く刻まれている。数十万から数百万という決して安くない価格にもかかわらず、若き会社員やカップルがローンを組んで買い求めた。
当時の日本はバブル経済の崩壊直後。殺伐とした現実に直面した人々にとって、ラッセンが描く圧倒的な青い海、跳ねるイルカ、夜空に輝く月と満天の星は、傷ついた心を癒やす「絶対的な理想郷」だった。CGではない。職人技とも言えるエアブラシ技術が生み出す光の質感と精密な描き込みは、見る者を一瞬で南国の海へとトリップさせた。