熊肉を扱う上でトリヒナと並んで警戒を怠ってはならないのが、寄生虫エキノコックス(多包条虫)の存在です。一般的にエキノコックスはキタキツネや野犬を終宿主、野ネズミを中間宿主とする感染症として知られていますが、熊もまたこの感染サイクルと無縁ではありません。
北海道に生息するヒグマは、エキノコックスの虫卵で汚染された木の実や植物を口にしたり、感染した小動物を捕食したりします。さらに、キタキツネの糞便が混ざった土壌を徘徊することで、ヒグマの体毛や足回りに目に見えない虫卵が付着するケースが現場の調査で確認されています。万が一、狩猟現場や解体処理施設で衛生管理が不十分なまま解体が行われた場合、付着した虫卵が肉の表面に移行するリスクは否定できません。
エキノコックスの虫卵を人間が経口摂取すると、幼虫が肝臓に寄生して5年から10年以上という極めて長い潜伏期間を経て肝機能障害を引き起こします。放置すれば肝不全に至り、かつては致死率が極めて高かった恐ろしい疾患です。熊肉を取り扱う際は、筋肉内のトリヒナだけでなく、表面汚染や解体環境に起因する複合的な寄生虫リスクを常に想定しなければなりません。