純金属よりも合金のほうが融点が低くなることは、工業分野では常識だが、一般にはあまり知られていない。錫と鉛を混ぜたはんだは、錫単体の融点232℃よりも低い180℃前後で溶ける。これは合金化によって原子の並びが乱れ、結晶構造に歪みが生じるためだ。規則正しい純金属の結晶に比べ、異なる大きさの原子が混ざった合金は結合が不完全になり、より低いエネルギーで結合を切断できる。
この現象を「融点降下」と呼ぶ。共晶合金と呼ばれる特定の組成では、融点が極小になる。例えば錫63%・鉛37%の共晶はんだは183℃でシャープに溶ける。温度に幅がなく一気に溶けて固まるため、電子回路の接合に最適な材料として長年使われてきた。現在は鉛フリー化の流れで錫-銀-銅系のはんだが主流だが、いずれも純金属より低い融点で作業できるよう組成が調整されている。
融点降下の考え方は、食品分野にも応用がある。チョコレートの融点は約25℃〜32℃と体温よりわずかに低い。この「口の中で溶ける」体験は、カカオバターに含まれる複数の脂肪酸が混ざり合うことで、純粋な油脂よりも低くシャープな融点を持つために成立している。