この事件を語る上で避けて通れないのが、司法・法制における「疑わしきは被告人の利益に」という原点である。2009年の最高裁判所による上告棄却判決により、林死刑囚の死刑は確定した。しかし、自白は存在せず、犯行に使われたとされるヒ素を彼女がカレー鍋に入れた瞬間を目撃した者もいない。
裁判で決め手となったのは、被告の自宅から発見されたヒ素と事件現場のヒ素が極めて類似しているという大型放射光施設(SPring-8)による分析結果と、「動機となり得る近隣住民とのトラブル」という状況証拠の積み重ねであった。直接証拠を欠いたまま最高刑が選択された判決に対しては、法学者や法曹関係者の間でも「合理的な疑いを差し挟む余地が残されていたのではないか」という議論が現代に走る激震として残されている。